社会保険労務士事務所
労務オフィスやまもと
パート雇用の基礎知識
■パートタイム労働者とは
パートタイム労働者とは、パートタイム労働法において「同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされています。したがって、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、名称の如何にかかわらず、前述の条件に当てはまる労働者であれば、パートタイム労働者となります。
注)パートタイム労働法の正式名称は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。
■労働基準関係法令の適用
パートタイムで働く場合においても、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法、男女雇用機会均等法等の労働基準関係法令が適用されます。
■労働条件の文書による明示
パートタイム労働者を雇い入れる際には、以下の労働条件に関する事項を文書の交付等により明示しなければなりません。また、実施する雇用管理の改善措置の内容を事業主が説明しなければなりません。
①労働契約の期間
②就業の場所及び従事すべき業務
③始業及び終業の時刻、所定時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2組以上に分けて就業させる
場合における就業時転換に関する事項
④賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り、支払の時期
⑤退職(解雇の事由を含む)
⑥昇給、退職手当、賞与の有無
⑦相談窓口
■雇用保険の被保険者になる者
以下のいずれの要件も満たすパートタイム労働者は、雇用保険の被保険者となります。
①31日以上引き続き雇用されることが見込まれること
②1週間の所定労働時間が20時間以上であること
■社会保険(健康保険、厚生年金保険)の被保険者となる者
適用事業所において、以下の要件を満たすパートタイム労働者は、社会保険の被保険者となります。
1週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が、その事業場で同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること
平成29年4月からは、以下のすべての要件を満たすパートタイム労働者も、社会保険の被保険者の対象となりました。
1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2)賃金の月額が8.8万円以上であること
3)雇用期間が1年以上見込まれること
4)学生でないこと
5)以下のいずれかに該当すること
①従業員が501人以上の会社で働いている
②従業員が500人以下の会社で働いていて、社会保険に加入することについて労使で合意がなさ
れている
■就業規則の作成・変更の手続き
パートタイム労働者を含め常時10人以上の労働者を使用する事業主は、就業規則を作成し,これを遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。また、これを変更した場合も同様の届出義務があります。
特に、パートタイム労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所において雇用するパートタイム労働者の過半数を代表する者の意見を聴くように努めなければなりません。
■就業規則の周知義務
作成された就業規則は、以下の方法で労働者に周知しなければなりません。
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける方法
②労働者に書面を交付する方法
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者がその記録の
内容を常時確認できる機器(パソコン等)を設置する方法
■時間外労働と休日労働
通常の労働者と同様に、法定労働時間(週40時間、1日8時間)を超えて働かせる場合や法定休日に出勤させる場合には、あらかじめ、その事業場の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数代表者)と協定を結び、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
時間外労働、休日労働、深夜業に対する割増賃金についても、通常の労働者と同じです。
■年次有給休暇
通常の労働者と同様に、雇い入れの日から6ヶ月間継続勤務し、決められた労働日の8割以上出勤した者に対して年次有給休暇を与えなければなりません。
パートタイム労働者の場合、1週間の所定労働時間が30時間未満であるケースも多いため、以下の要件を満たす者には、通常の労働者への付与日数よりも少なくてもよいように配慮されています。付与日数の詳細については省略します。
1週間の所定労働時間が30時間未満であり、
①1週間の所定労働日数が4日以下の労働者
②1年間の所定労働日数が216日以下の労働者(週以外の期間によって労働日数が定めている場合)
■定期健康診断
1年以上雇用する予定であり、1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上のパートタイム労働者に対し、通常の労働者と同様に定期健康診断を行わなければなりません。
■賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用
事業主は、職務の内容、退職までの長期的な人材活用の仕組みや運用などが通常の労働者と同一のパートタイム労働者については、パートタイム労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他のすべての待遇について、差別的取扱いをしてはなりません。
上記以外のパートタイム労働者については、以下の通りです。
1)賃金の決定
事業主は、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、パートタイム労働者の職務の内容、成果、意欲、 能力又は経験等を勘案し、その賃金(基本給、賞与、役付手当等)を決定するように努めなければなりません。
2)教育訓練の実施
事業主は、通常の労働者と職務内容が同じパートタイム労働者については、職務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を通常の労働者と同様に実施しなければなりません。
それ以外のパートタイム労働者については、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、職務の内容、成果、意欲、能力及び経験等に応じて教育訓練を実施するように努めなければなりません。
3)福利厚生施設の利用
事業主は、健康の保持や業務の円滑な遂行に資する福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)については、パートタイム労働者にも利用の機会を与えるように配慮しなければなりません。
■通常の労働者への転換
事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用するパートタイム労働者について、次のいずれかの措置を講じなければなりません。
①通常の労働者を募集する場合、その募集内容を既に雇っているパートタイム労働者に周知すること
②通常の労働者のポストを社内公募する場合、既に雇っているパートタイム労働者にも応募する機会を
与えること
③パートタイム労働者が通常の労働者へ転換するための試験制度を設けるなど、転換制度を導入するこ
と
④①~③のほか、通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること
■法律上禁止されている解雇
通常の労働者と同様、以下の解雇は法律上禁止されています。
①労働者の国籍、信条などを理由とする解雇
②業務上災害で療養中の期間とその後の30日間に関する解雇
③女性労働者の産前産後休業の期間とその後の30日間に関する解雇
④不当労働行為に当たる解雇(労働組合法)
⑤性別を理由とする解雇
⑥女性労働者の結婚、妊娠、産前産後休業の取得を理由とする解雇
⑦育児・介護休業を申し出たこと、取得したことを理由とする解雇
■その他
解雇予告、退職時の証明、労働災害、育児休業、介護休業、産前産後休業、育児時間、生理休暇等についても、通常の労働者と同様な扱いとなります。
また、パートタイム労働者からの相談に対応するための体制整備が義務となっています。